今回は前回のお約束どおり、「日本史ロジスティックス決戦!」の後半ということで、日本の歴史からロジスティクス下手ワースト3の人物について書かせて頂きます。
しつこいようですが「ロジスティクス」は通常言われる「物流(物理的流通」とか「運送業」という具体的な「コト」を指しているのではなく、もう少し広い概念です。
(ここから暫くは2月号・3月号で書いたことと重複することお許しください)
1990年の湾岸戦争でlogistics(兵站;へいたん)を率いたアメリカ陸軍のW.G.パゴニス元中将は
「輸送・補修・貯蔵・整備・調達・契約・自動化された作業、が一貫性を持って機能するように、注意深く組み立てていく任務」
と書いていました。
もうちょっと軍事チックではない書き方はないものかと調べてみたところ
Web英英辞書サイト「Cambridge Dictionary」では logistics(ロジスティクス)のことを
「 the careful organization of a complicated activity so that it happens in a successful and effective way 」
と書いていました。
これで「わかるよ」という人とはここでサヨナラ(笑)
私がつたない英語の知識とグーグル翻訳を駆使して和訳すると以下の通り
「複雑な活動計画を注意深く 整理し、それが成功し効果を生むようにする方法」
どうです?
ロジスティックスは具体的な「コト」を指すのではなく、「任務」や「方法」、つまりソフトやスキルであることおわかりいただけたのではないでしょうか?
ではさっそく、ロジスティックスがソフトであることがわからない、全日本代表!
ロジスティクス下手ワースト3を独断と偏見で選んでみたいと思います。
まずは3位! 北陸の覇者 上杉謙信!
武田信玄との5度にもわたる川中島の戦い、などで言わずと知れた「軍神」とも呼ばれた武将です。
15歳の時「栃尾城の戦い」で初先発初勝利してから、49歳で没するまで生涯戦績は71戦(!)中、61勝2敗8分。
勝率97%はもはや「無敗」と称しても盛り過ぎではないでしょう。
亡くなる前の年には、あの「第六天大魔王」と名乗っていた全盛期の織田信長の4万の攻め手を、「手取川の決戦」で2万の軍勢で一蹴しています。
そんなに強いのなら、信長に代わって天下統一を成し遂げても良さそうな謙信ですが、実質150万石の領地を手にするだけで精一杯。
戦う相手も定まらず、北条、武田、織田と手当たりしだい。
方向性も神奈川と43戦、長野6戦、富山17戦と海がある北以外の東西南に進出しています。
どういうわけか謙信軍は、11月頃に戦を始め、長期の戦いを好まず、たいてい冬が終わりそうになると、有利な戦況にも関わらず自国の信濃に引き上げてしまうことが多かったようです。
どうやら謙信が戦う目的は信長の「天下布武(てんかふぶ)」や家康の「厭離穢土欣求浄土(えんりえどごんぐじょうど)」のように明確で遠大なビジョンではなく、そのかなり手前のものだったと思われます。
謙信本人は戦をするのは「義」のためと称し、後世の人も「敵に塩を送る」など義将としての側面を大きく取り上げます。
私は一部の研究者などと同じく、謙信の戦は「農閑期の出稼ぎ」が目的だったのではないかと考えています。
米を作れない間は「タダメシ喰らい」の武将や領民を領国の外に出し、武力で他国の領民がが貯蔵している食料を徴発(強制的に取り上げること)することで、他国でタダメシを喰う。
「天下統一」という考えのない初期の戦国大名は、もれなくそんな考えだったようですし、「それが謙信のロジスティックス(やりかた)」といえばそれまでです。
しかし、やたらめったら戦闘にだけ強く、長期ビジョンやそれに基づく戦略や、戦地統治の仕組みもない(略奪するだけ)謙信のやり方は、私にはロジスティックス以前の問題に見えて仕方がないのです。
漠然とした理想と、やたら高い戦闘力だけを頼りに戦争を始めてしまった旧日本軍。
なんか、謙信のビジョン不足、ロジスティックス不在に重なって見えるのですが・・・
次に2位! バブル時期の日本企業!
映画ロボコップ3で、警察権力とデトロイト市民の土地を奪い、傍若無人に振る舞うカネミツ・コーポレーションのカネミツ社長。
同じく映画ダイハードで、ナカトミセンターに侵入したテロリストが要求した金庫の暗証番号の回答を拒否していきなり頭を打ち抜かれるナカトミ商事社長。
三菱地所によるロックフェラー・センターを所有するロックフェラーグループの買収、ソニーによるコロムビア映画買収などに対する、バブル景気当時のアメリカにおける日本脅威論・ジャパンバッシングが色濃く表現されていると思います。
その後、三菱地所が作ったロックフェラー・センターの運営会社は破産。三菱地所が買収した14棟のうち12棟は売却され、現在三菱地所が保有しているのはタイムライフビルとマグロウヒルビルのみ。
ソニーは現在もコロムビア映画を所有していますが、権利関係などで10万ドル近い訴訟を起こされるなど、買収直後に塗炭の苦しみを味わいました。
また、高品質・高機能で世界を席巻した日本の家電品やPC、半導体等々の商品も、韓国、中国、台湾に価格や使い勝手で敵わなくなり世界市場から退散。
日本企業が、長期にわたって各国に根を張れないのは、「よろこびを創造する」とか漠然とした理念はあるけど、製品や企業のビジョンが曖昧なため、製品そのものの品質以外に価値を認めてもらえないのが原因ではないでしょうか?
例えばスウェーデンの自動車メーカーのボルボは「2020年までに、新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者をゼロにすること」という明確なビジョンを持っていました。
2020年までにボルボがこのビジョンを達成することはありませんでしたが、1950年代の3点式シートベルトから始まった、ボルボの安全へのこだわりは一貫しています。
2019年には、ある意味「スピードが命」の自動車に180キロ以上出せない機構を標準装備するなど、利益よりビジョンを優先する姿勢は、フォード→吉理(中国)と資本が代わっても損なわれることはありません。
ボルボのいわゆる「ゼロビジョン」は今後もソフトとしてのロジスティックスを動かし続け、具体的でクリエイティブな先進機構を生み出していくでしょう。
具体的なビジョンを明示せず、「全部やります!」と絶叫するトヨタの姿勢に、私はその行末をすこし不安に感じています。
ビジョンや戦略は、打ち出された段階では完全な虚構です。
それを現実へと導くのがソフト・ハードとしてのロジスティクス。
いくら巨大な資本力を誇るとはいえ、もし「全部やる」が戦略だと言うのだとしたら、それに従うロジスティックス、それを支える経営資源は大丈夫なのでしょうか??
「全部やる」で中国大陸と南方への2正面作戦を打ち出し、敗れ去った、旧日本軍の二の舞にならなければいいのですが・・
そして堂々の、いや、不名誉な1位は 旧日本陸軍の牟田口中将!
ミャンマーから3000m級の大山脈、600mの川幅の大河を超えて、長駆100Km先のインド領内インパールへと進軍し、駐留しているイギリス軍を壊滅させるという「インパール作戦」の立案者にして、推進者であり、指揮官である牟田口廉也中将をダントツのワーストワンにさせていただきます。
彼には、「インド経由の米英の蒋介石軍への補給を断って中国での戦争を終らせる」という明確なビジョンがありましたが、ビジョンそのものがきわめて楽観的過ぎる上に、戦略・戦術も明確でありませんでした。
まあ言ってしまえば「精神力のみ」
「日本男子には大和魂がある・日本は神州である」「イギリス軍は腰抜けだ」
「敵と遭遇すれば銃口を空に向けて3発撃て。そうすれば敵はすぐに投降する約束ができているのだ。」
作戦立案時の彼のこんな言葉が残されています。
そんなわけですからロジスティックスも曖昧。
「もともと本作戦は普通一般の考え方では、初めから成立しない作戦である。(食)糧は敵によることが本旨である。(これも本人の言葉)」
ということで牟田口が考案した、牛・山羊・羊・水牛に荷物を積んだ「駄牛中隊」を編成して共に行軍させ、必要に応じて糧食に転用しようと言ういわゆる「ジンギスカン作戦」。
頼みの家畜の半数が川渡河時に流されて水死したり山越え中に病死したりして初期の段階で破綻。
それでも高い戦闘力を誇り、恐れを知らぬ日本兵は相当の犠牲を出しながら、インパールにたどり着き、イギリス軍の円筒形の陣形を包囲し攻撃を加えます。
イギリス軍は、空路による食料補給と、補給によって得た弾薬をふんだんに使った機関銃や迫撃砲での応戦でしのぎます。
長距離の行軍のため、軽装備だった日本兵はたちまち窮地に追い込まれ、食糧不足やマラリアなどの病気にも苦しむことになります。
円筒形基地にイギリス軍機が投下した補給品のおこぼれ(チャーチル物資と呼ばれました)を拾いにいく決死隊まで結成されたそうです。
結局、作戦を中止し退却した段階で、投入兵力9万2千人のうち7万2千人の戦病死者を出してしまった責任は、大和魂頼みでロジスティクスを軽視した、室田口中将一人にあると言えるでしょう。
しかも彼は部下たちを地獄のような目にあわせた作戦の指示を、ミャンマーのメイミョーという軽井沢のような避暑地で行っていたそうですから、悲しいを通り越して、心が無になってしまいそうです。
彼は督戦する訓示で兵士たちを前に
「兵器がない、やれ弾丸がない、食う物がないなどは、戦いを放棄する理由にならぬ。弾丸がなかったら銃剣があるじゃないか。銃剣がなくなれば、腕でいくんじゃ。腕もなくなったら足で蹴れ。足もやられたら口で噛みついて行け。」
と涙ながらに演説したそうで、実際兵士たちは、弾薬が尽きても石を投げるなどして戦ったそうです。
しかし食べ物がなくなったら、病気になったら、体が動かないのですから、どんなに精神力があっても戦えません。
戦病死者の中には、動けなくなって自決した方、生きながらヒョウなどの野生動物に食べられてしまった方も多く、退却路には死体が溢れ「白骨街道」の名がついたそうです。
私は、かつてミャンマーの代表都市ヤンゴンにある広大な日本人墓地を訪れました。
ここには太平洋戦争当時ミャンマーでの戦没者、その後捕虜として収容所で亡くなった方々の慰霊碑が建っていて、英霊の皆様の鎮魂を願うとともに
「事業やスポーツで争うのはいいけど、直接命をやり取りするのはやはりだめだなあ」
と強く思いました。
平和でフレンドリーなヤンゴン市内を楽しんできたので、いま混乱にあるミャンマーの情勢も気になるところです。
さて、現代に生きる私達経営に関わるものも、いくら精神力が強くても、本当にお金がなくなったら、会社を倒産させるしかありません。
その会社で働く社員も、いくら精神力があっても、給料がなくては行きていけませんし、精神力だけで、名刺やパンフレットなしに営業に行っても成果を出すことはできないでしょう。
「腹が減っては戦はできぬ」は真実なのです。
「最前線に最適なタイミングで最適な量の資源を届ける仕組みやスキル」であるロジスティックスの重要性は掛け算で考えるとよくわかります。
つまり
真の戦力=表面上の戦闘力 + ロジスティックス 力 ではなく
真の戦力=表面上の戦闘力 X ロジスティックス 力 が正解
もし競合と比べて戦闘力が多少下回っていたとしても
ロジスティクス力で大きく上回れば圧勝なのです。
優秀なみなさんならもうわかっていただけましたよね。
もし、ロジスティックス力で成功したいなら、ぜひ私達に声をかけてみてください。