第1回
「最近よく聞くキャッシュフロー計算書って役に立つの? 」
今回からテーマを変え決算資料について、これだけ知っておけばというところを、上記の3つの決算資料をそれぞれ取り上げて書いていきたいと思います。
財務があまり得意でない方向けに、いつものようにストーリー仕立てで書いてみました。
財務にお詳しい方は、社員さんに説明するときにこんな話だと、もしかして分かってもらえるかも知れません。
では早速始めさせていただきます。
まず一回目は最近良く耳にすることが増えた「キャッシュフロー計算書。」
最近流行りの「キャッシュフロー経営」にも通じるなにやらありがたそうな名前ですが、中小企業の経営に役に立つのでしょうか?
キャッシュフロー経営のこともからめてお話していきたいと思います。
今回登場する社長さんは社員数5名、パン洋菓子材料卸業のCF商会、銭形樽男(ぜにがたたるお)社長です。
銭形社長のご商売は市内のパン屋さんやお菓子屋さんにパン洋菓子の材料を卸すというもの。
先にメーカーや商社から材料をまとめて仕入れなければならず、入金は早くとも販売した翌月。
起業前にすこし蓄えがあったので銀行からの借り入れはありませんが、社長はお名前に似合わず、いつも資金繰りで大変。
税理士事務所から来る月次決算では前月黒字だったのに、支払日にパートさんから「今月5万円足りません」なんて言われるたびに、自分の通帳から会社の通帳に移動(これを「役員借り入れ」と呼びます)。
そんな銭形社長、ある日「キャッシュフロー計算書」という言葉を聞きつけ資金繰りが楽になるのかな?と税理士に作成をお願いしてみました。
早速先月分の「キャッシュフロー計算書」を作ってもらったが、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローという
見慣れない文字と数字が書かれているだけで、よくわからない。
税理士先生に聞いてみると、キャッシュフロー計算書は今あるお金を何(本業・投資・借金)で得たかがわかるだけで、
将来のキャッシュの流れが分かったり資金繰りに使えたりするわけではない、との冷たいお返事。
結局キャッシュフロー計算書で「お金があんまりない」ことだけが再認識できました。
そんなある時、知人経営者から、昔の八百屋さんが店先にぶら下げたざる1個で現金を管理してたように、
現預金の残高だけ毎日チェックする「ザルキャッシュフロー」という考え方を教えられた銭形社長。
さっそく経理担当のパートさんに毎日の現金と預金の残高だけメモをもらうようにしてみました。
メモを見ながら、月末は支出を抑え、支払いに必要な現金が残るように工夫したことで、少しづつ支払いで困ることはなくなって行きました。
そして「ザルキャッシュフロー」の「来月分のキャッシュはキープ」の原則で、CF商会には少しづつ余ったお金が発生しだします。
「余ったキャッシュは利益につながって税金を払らうはめになる」そう考えた銭形社長は、「節税」の名目で給与支払いに使う分以外のお金はなるだけ使うことに決めました。
地元経済団体の名簿に名を連ねた銭形社長は、余ったお金を会員さんとのお付き合い等に費やしていきました。
当座のお金の心配もなくなり、楽しく遊べる経営者のお友達も増え、「社長になってよかった!」と心から大満足の銭形社長なのでした。
そして3年後のある日のこと、配達に使っていたワゴン車2台のうち15年モノのほうが故障で動かなくなってしまいました。
前々から車の不調に気づいていた銭形社長ですが、すっかり遊び癖がついてしまい、現預金に余裕がなく、ついついそのままにしていたのです。
慌てて知人の整備工場に程度の良い中古車を探してもらいますが、全額どころか頭金もないので残価設定型の5年リースで契約することに。
おかげで毎月の経費は3万円アップしてしまいました。
もう一台の12年モノも、いつどうなることか・・・
さらにいつの間にか創業以来使っていた冷蔵設備にもガタが出始めたようです。
こちらの修理費はいったいいくらかかるのやら・・・
当座のキャッシュを管理することはもちろん大事ですが、しっかり利益を出して税金(法人税)をしっかり払うことで、キャッシュフローだけでなくキャシュストック(余剰金)も作っておけばよかったですね。
つまり、キャッシュフローにだけ注目した経営は、解釈を間違えると「銭が足りても、勘定合わず」その場しのぎ、
ジリ貧経営になってしまう可能性が大なのです。
近年叫ばれる「キャッシュフロー経営」のほんとうの意味は銭形社長が考えるようなものではなく、PL(損益計算書)でわかる会計上の黒字だけでは、「勘定あって銭足らず」の黒字倒産になる危険があるので、手元現預金のあるなしや回収・支払予定などのお金の流れ、つまりキャッシュフローにも気を配りましょうね。
設備投資は銀行からの借り入れに頼るだけでなく、しっかり自前のキャッシュも手当しておきましょう。というごくごく当たり前のことで、魔法のように儲かる経営手法のことではありません。
現金の現在がわかるキャッシュフロー計算書も大切ですが、キャッシュの未来もしっかり考えてこそのキャッシュフロー経営であることをお忘れなく。
ちなみになる話
キャッシュフロー計算書は、上場会社の粉飾決算に対する株主の財産保護を目的に1990年代にアメリカで始まり、2002年日本の上場会社もその公開を義務付けられました。
その会社の株を持っていたり、買おうとしている投資家が「決算は黒字だけど配当のための現金ちゃん持ってるの?その現金は本業で稼いだの?借りてきたの?将来のためにちゃんと投資してる?」ということが分かる資料です。
つまり元はと言えば上場会社の株主(投資家)のための資料なんです。
ですから私は株を売らないオーナー会社にとってのキャッシュフロー計算書はほぼ「お飾り」だと思っています。
も一つちなみに「オマハの賢人」こと伝説の投資家ウォーレン・バフェットさんの言葉を紹介します。
「キャッシュフローは株主利益=A会計上の利益+B減価償却-C平均的な設備投資費用(=減価償却費))のCを無視している。キャッシュフローは証券を販売する連中が正当化できない取引を正当化するために多く用いられる数値に過ぎない。