Vol.50_植物的スタティック経営のすすめ

NHKの朝ドラ「らんまん」が終了しましたね。

主人公、槙野万太郎のモデルになった植物学者牧野富太郎は、金銭感覚の欠如や、人間関係での遠慮のなさなど、なかなかの人だったみたいで、歴史学者の磯田道史さんはテレビ番組で彼を「開かれたオタク」と呼んでました。

私も多少影響を受けたのか、稲垣栄洋さんという植物学者の「面白くて眠れなくなる植物」という本を手に取ってみました。

自然科学好きで、一部では「雑学王」の呼び声高いサワダは哺乳類・昆虫・魚介類や恐竜やバージェス動物群などの古代生物、といったの生き物に関してはそれなりの自信がありますが、鳥類と植物はもう一つ興味がわかず、あんまり良くは知らなかったのです。

しかしこの本を読んでから、「あーきれいだな」とか、ただのほほんとながめていた植物に対する見方が根本から変わりました。

植物というのはただ静かにそこに「植わっている物」ではなく、実はとんでもない生存競争を勝ち抜いてきた生き物なんです。

例えば、植物は繁殖のためには花粉を昆虫などに運んで貰う必要がありますが、運んでもらいたい昆虫の種類に合わせて、花の色や形状を変えます。

例えば夏に活動するコガネムシに花粉を運んでもらいたいモクレンは、比較的重い彼らがとまりやすいように平たく上向きに、夏の日差しに目立ちやすい白い花をつけます。

春先のアブに花粉を運んでほしい、ナノハナは彼らの好きな黄色い花を付けて、割と短距離を飛び回る彼らのために、まとまって咲きます(お花畑ですね)。

また、飛翔力が高いミツバチに遠くまで花粉を運んでほしい植物は、彼らが好む紫色の花を付けたり、頭のいいミツバチだけが蜜を吸えるように花の形を細長くしたり、下向きにしたりします。

また、植物に必要不可欠な光合成についても、実は激しい生存競争があります。

樹木はなるだけ高いところで太陽の光を受けようとしますが、実は毛細管現象で水を引き上げている植物は大気圧の関係で本来10メートルしか水を吸い上げる力がないので、それ以上は高くなれないはずなんです。

しかし巨木化する植物は、葉っぱの裏にある気孔という穴から水分をわざと出すこと(蒸散)によってターボを効かせて100メートル以上の高さで太陽の光を受けることができます。

一方、草と呼ばれる背が低い植物は、樹木が育ちにくい水分や栄養に乏しい場所でも生きられる、特別な光合成の仕組みを使ったり、草食動物に食べられてもまた生えてくるように「成長点」と呼ばれる部位を土の下に隠して生存をはかっています。

と、ここまで稲垣先生に教えていただいて、サワダは気が付きました。

「企業と植物ってけっこう似ている!」

ターゲットとするお客様に合わせて姿かたちが違うところは、花粉を運んでくれる昆虫に合わせて咲いている植物の花とそっくりです。

1店で多く商品を供給したいスーパーや大型店は平たく目立つモクレンの花のように間口を広く、目立つ白い壁面の外観をしています。

どこでも良いから便利に用を済ませたいお客がターゲットのコンビニは同じ地域に同じ外観の店舗を沢山展開(ドミナント戦略)します。

これって同じ場所で黄色い花を大量に咲かせてお花畑を形成するナノハナに似ています。

一方、高い価格帯のお客狙いのハイブランドのお店は、少し奥の方にひっそりと入りにくいお店を作るものですが、これは確実に同じ仲間の花に花粉を届けてくれるミツバチ狙いの植物と戦略が似ています。

蒸散を使いながら高みを目指す巨木は、より多くの出資者を募って成長を目指す上場企業を思い起こさせますし、

大企業が手を出さない分野にあってローオペレーションコストでしのぎ、不景気のときは取扱商品やサービスを入れ替えながらしぶとく生き延びるわたくしたち中小企業は、草類によく似ていますね。

もちろん、自分から動いて仕事を取る動物のように、「営業魂」も大切ですが、営業には、「活動」という大変なコストが必要です。

活動にかかるコストが利益を上回れば生き抜くことはできません。

じっとそこにあっても、自然とお客様に選ばれ、仕事が入ってくる。

そういった植物のようなスタティック(静的)なあり方をデザインする「必死の努力」も我々には必要なんじゃないでしょうか。