経営やってみたラボ、1「ナイストライ & ナイスエラー」

私自身が会社を経営する上での価値感も、時代や会社の成熟とともに変わりました。

社長就任当時の1996年、まず考えたのは「赤字からの脱却」

父から引き継いだ電気設備会社を引き継いだ途端の建設バブル崩壊で、剰余金の半分を失う赤字を出すことになり、まずは立て直しが急務となりました。

人を減らし、経費を削り、減価償却もままならない状態で5年間、百万単位でコツコツと黒字を積み増す努力を続けたその頃の価値感は、「頭を下げてなんでも受注」「何かありましたらよろしくお願いします」とばかりどんな仕事でも文句を言わず引き受け、なんとか凌いでいたわけです。

そんな暮らしに疲れ果て、低利益の原因を社員の利益意識に求め、2003年頃から社員に対する手厚い「期末手当」を武器にやせ馬に鞭打ち続けた結果、やっと営業利益のケタが一つ増えだしました。

この頃の私の価値観は「粗利率」、売上の向上を目指さず割の良い仕事だけを選び、仕入先や同業者の困惑には目もくれず、我と我が社の安全と安定だけをがむしゃらに求めていたころです。

経営状態が良くなり始めた2005年ごろ、地元の社長さんたちとのお付き合いも増え始め、私はだんだんと「会社の評価」に目が行きだしました。

一人前に「良い会社、良い社長」と思われたい

マズローが言うところの「承認欲求」の萌芽とでも言うのでしょうか?

一番わかりやすく目指しやすかったのが「調査会社の評点」これが当時の価値観の中心でした。

利益を増やすことはもちろん、これまでの成行き経営でいびつだったバランスシートを整え、金融機関からの評価も少しずつアップさせていきました。

そうはいっても評点には市場規模や業態でどうしてもガラスの天井がありますので、あるところから点が伸びなくなりす。しかし評点を価値観にしたおかげで、私の「PL(損益計算書)脳」は徐々に「BS(バランスシート)脳」に切り替わっていました。

BSはPLの表紙ではなく、BSこそが会社の成績表。だからBSの中身を本物にしないと決算書が単なる「お飾り」になってしまうと考えたのです。

同時に私はBSのスリム化にも着手します。

長短のバランスをととえ、ファイナンス・リースは最小限にし、価値のない在庫を除却し、受取手形の割引をやめ、支払いを現金に変え(そのぶん借り入れは増やしましたが)、債権回収期間の短縮を行いました。

当時は「キャッシュフロー経営」が真っ盛りで、ずいぶんと安易な議論も横行していましたが、ウォーレン・バフェットの書簡集を読んでいた私には「CFは良いBSについてくるもの」「CF偏重は未来への投資を忘れたボロアパートの大家さん」という感覚でした。

そして、2012年ごろ私はBSの改善で手に入れた「時間感覚」から逆にPLの改善に着手します。そう、「スループット向上」が次の価値観になったのです。(この話は、簡単には説明できませんのでここでは割愛します)

そして、ここまで来てやっと私の目は社員に向かいます。

「業界最高水準・学校当時の仲間に負けない・子供が望む教育を与えられる給与水準」が私の次の価値観です。

そのせいで労働分配率はぐんぐん伸びましたが私は意に介しませんでした。

しかし、世の中そんなに甘くはありません。十分な裏付けのない給与アップはすぐ「既得権益」と化してしまいます。

いつのまにか安易な売上・粗利主義に陥った当社の業務は非効率化、たちまち営業利益が出ない会社に逆戻りしてしまいました。

(当時私が多角化経営に伴う権限委譲を進めていく中で「スループット」に関する考えをうまく伝承することができなかったことも響きました。)

そこで、昨年度から自分たち経営陣も見本を示して膨れ上がったコストを整理し、さらに環境整備など、部門間を超えた活動を開始しました。おかげさまで、昨年の決算でここ2年ばかりの負け分は1年で解消。

こうやって振り返ってみると、過去の常識を捨て、新しい価値観に都度挑戦することで失敗と成功を繰り返しながら、結果的には今のところ成長を続けてきたのかなと思います。

もし最初に書いた「茶そば」のお話のごとく、その時時の常識を「変だな」と思わずに、「なんでも受注」したり、未だに「PL脳」のまんまっだりしていれば、当社のように経営資産も環境もフツーの会社は、たちまち窮状に陥ってしまったでしょう

(いわゆる「アジリティー(俊敏性)」がわれわれの取り柄です)。

さて、そんな私がこれから大切にしようとしているのは、「未来への貢献度」と「関係者間のエンゲージメント」です。

今後はこの2つをてこに、コア業務の蓄電池設備、ようやく認知が高まりだしたCO2削減・エネルギーマネジメントコンサルタント業務、働き方改革を促す人事評価システムコンサルタント、日本の未来のためのジュニアプログラミング教室、そして同じ志を持つ経営者の皆様へのコンサルタント業務を展開し、「未来に貢献」していきたいなと考えています。

まだまだ挑戦は始まったばかり。これからも「ナイストライ」「ナイスエラー」を続けていきたいと思っています。