経営やってみたラボ、15 なぜ中小企業の管理会計は上手くいかないのか?

今回は、何社かのコンサルティングというか経営管理業務をサポートをさせていただいていて気づいた、結構コアな部分のお話をさせていただきます。

私がサポートさせていただいている会社の社長さん方は価格競争ではなく、独自商品やサービスで勝ち抜いてきた、事業センス抜群の皆さんです。

私が今後の5年間の展望を尋ねると、皆さんかなり明確なビジョンを語っていただけるので、その実現をお手伝いする私からすると、非常に立案が楽だとも言えます。

しかし、その社長さんが実感している頭の中の数字と、実務をやっている社員さんが扱っている数字のあいだに、お互いほとんど関連性が見られないことに、私はとても不思議な感じがしました。

もちろん、社長さんの「百万以下は切り捨て」と、請求書でも見積書でも「一円でも間違ったらやり直し」の社員さんの感覚が違うのは当たり前のことです。

それにしても、社員のみなさんが扱う数字と、社長が押さえている数字は、本来同じもので、それを上から見ているか下から見ているかの違いに過ぎないはずです。

ですから、山の両側からトンネルを掘るがごとく、どこかで繋がらなくてはならないはず。

しかしよくよく聞いてみると、社長さんたちは下から出てきた数字に、過去の経験や、現在の情勢やこれから起こりそうなことを掛けたり割ったりして、未来の数字を読んでいる。

まあ言ってしまえばほとんど神ワザ級で、一般の社員さんから見たら何がどうなって、その予測が出てくるのかほとんどわかりません。

その謎の計算過程は非常に属人的・魔術的で、社員さんとは共有されていない。

で、結局社員さんから見たら、立派な理念や理想を掲げられていはいるものの、会社の現在地がさっぱりわからない。

そんな獏とした不安にさらされながら、会社を信じて日々頑張るしかない。

ということになっているようなのです。

それならばと、私達は各々の会社の持っている数字、例えば会計事務所作成の月次決算書を使って、社員も社長も共有できる資料を作ろうとしました。

しかしそこで社長さんから言われた一言は

「沢田さん! 月次決算書なんて全然当てにならないよ。全然俺たちの実感と合わないもん。」

そう言われてみれば会計事務所の月次決算は、納品日=売上日の「発生主義」なので、「成約残」や「受注残」が載っていることはなく、毎日「成約」や「受注」に頑張っている皆さんにとって、(年次の締めならともかく)毎月となると全く目安にならない数字なのです。

つまりはこういうことです。

中小企業がふつう「会計事務所」と言っているのは「税理士事務所」のこと。

要するに彼らは、正しい(もしくは有利な)納税のための税務計算の専門家です。

つまり彼が作る決算書はよかれ悪しかれ、この1年間でどのくらい法人所得税を払うべきかを計算する税務会計の延長上。

月次決算だって、1年の税金を計算するための決算資料を12で割ったものに過ぎないのです。

「受注=納品、季節変動なし」という事業でもない限りそこから何かを導き出そうというのは難しいと思います。

さらに企業側の都合で仕入れや経費等必要な数字が出ず記帳が先送りになったら、もうますます使えない資料になってしまいますね。

彼ら側も、最後に1年の帳尻があって税務申告できれば良い、と考えているフシがあります。

ならばと、会計事務所に出る前の経理の数字を使えないかと思いましたが、一番肝心な粗利の分析ができません。

売上は顧客別、仕入れは仕入先別の口座で管理されているのですから、トータルの粗利はわかっても、この売上でいくら儲かった、どの分野が儲かっているなどのデータは作れません(もちろん体感的にはわかるようですが)。

どうやら、経理のお仕事の基本は「今月いくらあってどこにいくら払うのか

つまるところ毎月の帳尻(残高)を合わせることが中核業務なのです。

会社の経理は毎月の帳尻、会計事務所は毎年の帳尻。

つまり現在から過去にかけてのデータにしか興味を持っていないわけなんです。

しかし社長が欲しいデータは「これまでどうだったか」ではなく「これからどうなるか」に関するもの。

会社のデータからこれを知ることができないので、社長は頭の中で経験と勘でもって、数字を作っていかねばならないし、それを共有しない社員さんは見通しが立たない。

結果、理念などの総論では社長と社員が一致していても、各論になると互いの思惑が一致しない。

ということが起こってくるわけです。

最終的に私たちは、決算書も経理データも使わず、その手前のソースである日計表をDX化することで、そこから直接数値を取ってくることにしました。

今その数字を元に現状での売上見込と粗利見込み、そして予算とのギャップを浮き彫りにしていこうとしています。

実はこれ、自分の会社ではずーっと前からやっていたことなんです。

前にも書いたかも知れませんが、私は中規模ながら受注産業系の上場会社の企画部門にいたことがあります。

そこでは当期の累積売上と当期納品予定の受注残の合計を部門別に出し、後は部門長さんの部下への取材とカンで計算する「見込み」を合計して当期の売上予測を立てていました。

もちろん製品別にも集計していたので、粗利の予測もそれなりに立っていました。

私は偶然その手法を知っていたので、自社に戻ってからそのやり方を踏襲し、さらに見込み部分の精度を上げる仕組みを作り上げていたのです。

ですのでグループでは早ければ半期が終わったところで、通期の利益見込みがある程度わかってしまいます。

全員というわけではありませんが、およそ1/3を占める幹部社員は全員このデータを共有しており、彼らもこの見込みを口頭ベースで部下と共有しています。

ですから会計事務所の出してくれる月次決算がたとえ大赤字でも、我々は涼しい顔で、目前の仕事に打ち込み、先々のための戦略的な出費ができるというわけです。

(実際、年度末にかなりの売上を上げるビジネスモデルなので)

今後現状での見込みが作れるようになった顧客とは、業種ごとに異なる残りのギャップを埋める数字の掴み方を一緒に研究していこうと考えています。

「現状や先行きを正しく数値化することで、トップの意思決定を助け、その根拠をわかりやすく社員に説明した上で、意思決定に基づき策定された目標へのロードマップと進捗を社内で共有することで、その実現をサポートする。」

そんな、軍事で言えば参謀のような仕事をする部署を一般に「経営企画部門」と言います。

「中小企業の管理会計が上手くいかないのは、経営企画部門の不在が原因」

ということのようですね。

実は当社も昭和が終わる頃までは、この辺がぜんぜん上手くいっておらず、月締めの売上・粗利データに手計算の受注残を足したものくらいしか判断材料がありませんでした。

なので期末になるまでいくら売れたか、いくら粗利があったのかがわからないため、将来を見据えた経費の使い方などできるはずもなく、ただただ出費を抑えケチケチするのがそのころの「経営管理」

業務用車も動かなくなるまで使い倒し、商売道具の工具・計測具も「形がなくなるまで使う」体たらくでしたね。

ですから、期末ボーナスや、経費をしっかり使った業務効率の改善なんて夢のまた夢。

結果的に期末に出た利益は泣く泣く税金を払って蓄積するか、配当してしまうくらいしか方法がありませんでした。

その後平成3年頃、やっと認められて私が営業部長職についた時、先述の営業企画の経験を生かしたエクセルベースでの売上・粗利見込みに着手。

今思えばまだまだ稚拙でしたが、ようやく決算の3ヶ月前にはほぼ正確な利益見通しが立つ様になりました。

その後数年積み重ねたデータと長年磨いたカンを元に先代社長が社屋の建て替えを決断。

社員から「出る」とまで噂された歩くと揺れるボロボロの倉庫兼社屋を平成6年に鉄骨3階建てのビシッとした現在のものに建て替えることができました。

自画自賛かも知れませんが、もし当社が経営企画に取り組んでいなかったら、あの「出る」社屋は今でも健在か、2011年の大地震で倒壊してしまっていたかも知れません。

私は将来の見通しを立てるために必要なのは、現在より前のデータだけではなく「モメンタム(勢い・慣性)」で、それを数値化することが何より大切だと思っています。

ボールが今あるところではなく、これから行くところへ行かないと、ゴロはさばけませんよね。