経営やってみたラボ、10 「分けて考えなかったらこうなった(2)」

前回「ミカド電装商事30億円プラン」を立てたものの、さっぱり社員の同意を得られなかったお話をしました。

今回は一つの箱に色々詰め込もうとしたら上手くいかなかったばかりか、これまで上手くいっていたことまで一緒にだめになってしまった、というお話です。

前回お伝えしたとおり新規事業開発については社員たちの同意を得られない状態です。

さてどうするか??・・撤回?? いやいや、トップたるもの、そう簡単にプランを撤回するわけには行きません。

今回の件でえらくプライドが傷ついた私は、「ミカド電装商事30億円プラン」の実現に向けて、本格的に動き出します。

色々やりましたが、最も力を入れたのは主に以下の4つです。

1)役員と手分けして様々な展示会に出かけてのネタ探し

2)自分たちにできそうなFC(フランチャイズ)の説明会

3)コンサルから紹介のあったパートナー候補企業さんとのお見合い

4)我々のそんな姿を見てもらいながらの既存事業社員の意識改革

数年間の取り組みをざっと振り返ってみると以下のような感じでした。

まず1)展示会、まるっきり違う分野のものはやはり厳しそうなので、電気やエネルギー関係を主に回りました。

結構回数は行きましたが、残念ながら我々にとって良いと思えるものは見つかりませんでした。

よく考えれば当たり前ですが、ずっーと長い間、蓄電池設備専業でやってきた狭い知識で扱える商品やサービスが早々都合よく転がっているわけはなく、収穫といえば中国企業の意気込みと、IOTに対する大企業の金のかけっぷりとを肌で感じてきたことくらいでしょうか。

2)FC(フランチャイズ)の説明会も色々調査した上、数件行ってみました。

電気関係で自分たちにもなんとかできそうなFCもありましたが、単価の低さと、今後の市場の広がりが見えてこない、というところがネックになり、こちらも本契約には至りませんでした。

3)パートナー候補企業さんとのお見合いはなかなか魅力的企業さんがお相手でした。

先方の製品の検査や現地調整を我々がするというのがそのパートナーシップの中身です。

工場が北関東で遠かったのですが、既存技術の延長線上で出来そうなこともあって、当方は割と乗り気だったんです。

しかし先方で社内の意見調整がつかなかったらしく、結局お断りされてしまいました。

4)既存事業社員の意識改革

我々のそんな姿を見てもらいながら、「変わらなきゃいけない」「今とおんなじ仕事がいつまでもあるわけではない」と事あるごとに説明。

これは今にして思うと、これは全くの逆効果でしたね。

目の前の仕事を一生懸命やらねばない彼らからしたら、こんなこと言われたら不安を感じるでしょう。

第一、自分の仕事にケチをつけられたみたいで面白くなかったでしょうね。

そんなこんなでミカド電装商事の役員は数年を「新規事業モード」で送りました。

そのころの私の役員会での口癖は「赤字になってもいいから役員は新規事業に重点を」でした。

まあその言葉通り、というかなんというか、取り組みから4年後の2016年度、ミカド電装商事は赤字に転落してしまいます。

残念ながら次年度の2017年度も黒字回復はなりませんでした。

赤字の主な原因は売上の減少でした。

もちろん私をはじめとする役員が新規事業に使った時間による戦力低下や、コストのせいもあったでしょう。

しかしそれ以上に、そんな私たちを横目で見ていた社員の士気低下が大きな原因だったんじゃないかと私は思っております。

売上が低下すればむしろ下がるはずの通常業務に関わる変動費がジワジワと増えていったことは当時の社員の士気低下を何より雄弁に物語っていると思います。

実際に現場では、洗えばまだ使える作業用の手袋が無造作に捨てられていたり、準備不足で用意して行かなかった工具や部材を現地調達する例が跡を絶たなかったといいます。

「そりゃさー言ってることは多少分かるけど、自分たちが誇りを持ってやっている仕事を不安視されるなんて気合入んねえなー」

「社長たちが「勉強」とか言ってあんなに無駄遣いするなら自分たちだって・・・」

声には出さないけれど、みんなきっとそう思っていたことでしょう。

つまり今回の赤字は過去「赤字は悪」と言っていた私が急に言いだした「赤字になってもいい」が忠実に守られた結果だったのです。

もちろん、赤字になっても構わないというのは一定の文脈の中で話されたことであって、その一行だけでは私の本意を表していません。

「新規市場開発のコストをケチるな」「もっと発想や行動の幅を広げてほしい」という意味であることは、赤字の怖さを知っている役員なら十分理解してくれます。

例えが変かもしれませんが「死ぬ気でやれ」と言ってもほんとに死んではほしくないのと同じことです。

しかし、日々のミッションを黙々とこなす社員たちからは私の行動や発言がどう見えていて、どう聞こえていたんでしょう?

社内を全部一緒くたにして分けていなかったばっかりに、私が役員会で経営(戦略)目線で言ったことが、現場(戦術)でも忠実に実行されてしまったわけですね。

やはり、「戦略と個々の戦術はしっかり分けて考え、行動しないと・・」と痛感させられた出来事でした。

カツ丼は一つのどんぶりに、カツと卵だからまとまりがあります。

白ごはんに何かを乗せて卵でとじるのが「戦略」、美味しいカツの存在が「戦術」

だから親子丼、他人丼、衣笠丼などのバリエーションができるわけです。

しかし、トンカツと鶏肉と豚肉とお揚げが一緒に丼にのっていて卵でとじられていたら?

さらに言えば、幕の内弁当の中身、卵焼き、焼鮭、エビフライ、椎茸の煮物、煮豆、桜漬けたちが全部まぜまぜされて醤油をかけられ、御飯の上に乗っかていたら?

たぶん私そんなことをしてしまっていたんだと思います。

さて次回は「分けて考えたらこうなった セグメント(分割化)は大事です」についてお伝えします。