経営やってみたラボ、9 「分けて考えなかったらこうなった(1)経営者と社員の目線」

それは今を遡ること7年前の2013年、まだホールディングス化する前のお話です。

ミカド電装商事はその当時、震災の復旧需要が一年で一段落したものの、売上げは10億円をしっかりキープ。

利益もまあまあ出ていましたが、私には一抹の不安がありました。

「・・・このままでは頭打ちになる・・・」

私がそう考えたのには一応一定の根拠がありました。

当時我々は主戦場とする東北の蓄電池設備の市場規模を、付加価値込みで32億円程度と見ていました。

10億の95%以上をそこで稼いでいたわけですから、おそらくシェアは30%

ランチェスター戦略で言うところの41.7%の「安定的トップシェア」には届かないが、一歩抜け出した状態と言われる「市場影響シェア」26.1%はオーバーしています。

同じ地域で戦う同業の他店もそれぞれ得意分野を持ち、しっかり顧客をグリップできている状況。

自分たちが背後に大切なお客様(ガラスの城)をかかえている時、相手の背後のガラスの城に石を投げ込むのはあまり賢明なやり方ではありません

つまりこれ以上売上げ規模を増やそうとすると、互いに消耗戦になってしまい、コストアップは免れらないというわけです。

それでは、ということで東北から天下を狙った伊達政宗のごとく、東京など他地区への進出も模索してみましたが、まさしく政宗の時代と一緒でしたね。

ちょっと考えれば当たり前の話でしたが、成熟したこの市場はメーカさんによってすでに 天下統一は終わってしまっていて、当社も含めて幕藩体制のごとく地区の担当代理店がしっかり決まっており、代理店制度の壁が大きく立ちはだかります。

その頃華やかに一般に普及しつつあったM&Aも一時検討してみました。

東京丸の内にある日本〇&〇センターのセミナーに行ったり、担当者のお話を聞いてみてわかったのは、私達は先方からむしろ「食べごろの美味しい会社」という「やらしい目」で見られてしまうということ。

当然というべきか、そっちの「売ってください」的な話しか入ってきません。

「かくてはならじ、しからば新規事業にとりくんで成長戦略を立案するしかないか」、と某有名コンサルティング会社さんと2013年から3年のお約束で契約。

月2回のミーティングを重ね様々な提案をしていただきました。

まず最初はこれまで年功序列が主で、評価は期末手当の配分時のみだった人事評価制度を整備、給与テーブルとそれに紐づく等級別の考課表を作成。

さらに、「社員満足」を起点に「社員」「顧客」「社会」への「貢献」をうたった企業理念を作成。

そうやって約1年間、練りに練って完成したのが

「ミカド電装商事30億プラン!!」

これを発表した翌年春の、松島温泉旅館で開催した社員研修のことは忘れられません。

一般社員のガラス玉のような目、凍りついた空気。

私が熱弁すればするほど全速力で離れていく社員の心が見えるような30分でした。

楽しいはずの夜の宴会も、一気にクールダウン。

いつもの研修会ですと、なんだかんだ言っても大半の社員が私にお酒を注ぎに来るんですが、このときばかりは誰も私のもとにはやって来ません。

こんな時、下座に行っても相手にされそうもないことぐらい、私にだってわかります。

上座でひとりちびちび日本酒をなめながら味気ない一晩を過ごしました。

・・後日、正直者の社員に言われましたね・・

「社長 私達に3倍働けっていうんですか?」

「えっと・・・いや〜そういう意味じゃないんだけどな〜」

そうなんです、社員の感覚で見れば

「今やっていることが仕事のすべて」「今あるもの今いる人が会社のすべて」

あのときの社員たちの心の声はきっと・・

「単価3倍にするんですか?」「お客さんの数を3倍にするんですか?」

「現場3倍行ったら死んじゃうよ」「伝票3倍処理するの??」

「この採用難に人3倍にできるわけないじゃん!」

「今だっていっぱいいっぱいなんですから、おんなじ人数で3倍なんて無理無理無理無理!!」「同じ人数で3倍ってことは8時間×3=24時間働くの〜??」

「でもお給料はおんなじー」

さらに「具体的に決まってないけど新規事業をやる」なんて話は

「いーえ聞こえません! ぜえぇったいウソ! そんなこと言われても信じません!」

・・というわけで耳にも目にも全然入ってこなかったようです。

もうひとつこうも言われました、「それは社長の夢であって、私には関係ありません

どうやら「貢献」という抽象的な理念と日々自分たちが取り組んでいる「仕事」になにかの関わりがある、とすぐには理解してもらえなかったようです

「それは違うよ 私個人のじゃなくて みんなの会社としての夢だよ」と力弱く答えながら

「んー まー 確かに・・そう言いわれてしまえば そうかな・・・」

心のなかで正直にそう思ったことを覚えています(笑)。

私の頭の中ではクリアにつながっている「理念」から今の現実までの道のりが、ろくな説明もなしに社員の皆さんに見えるわけないですよね。

その3年後にホールディングス化と多角化を発表した際には、このときの反省を活かし自分の思考のプロセスを社員と共有できるようにと

・ホールディングス化&多角化で自分の身に何が起こるのかを具体的なメリット主体に丁寧に説明

・理念(あるべき姿)→ミッション(与えられた使命)→ビジョン(ミッションを果たすとどうなる)→バリュー(共有すべき価値観)→コンピテンシー(行動目標)→MBO(数値目標)と抽象的概念が具体的な成果につながる過程を見える化することに腐心しました。

足元をしっかり見て仕事をしてくれる社員と、つねに先を見通さなければならない経営者はおのずと視点が違ってくるということを身をもって体験したお話でした。

次回は「分けて考えなかったらこうなった(2) セグメント化の重要性」について書かせていただきます。